◆大穢-前編- クリアしました。
初日からぼちぼち進めて、無事完走しました。
大作です。
同人発のノベルゲームとしては最高峰と言っても過言じゃないくらいの傑作でした。
本記事は各ルートの考察含め、個人的な感想をまとめた記事となります。
過去記事も大穢発売もあってかぼちぼちご訪問いただいているようで、嬉しい限りです。
専門性に欠ける考察・妄想ばかりの本ブログですが、こういう楽しみ方も楽しいよ~という参考になれば幸いです。いつもご訪問頂きありがとうございます。
※本記事は大穢-前編-のネタバレを多大に含みます。
◆作品情報
タイトル:大穢-前編-
サークル:ADELTA
ジャンル:古典クローズド・サークルを日本色にアレンジした昭和ホラーミステリー
スタッフ:くろさわ凛子(スチル・シナリオ・スクリプト・BGM)
対応OS:win7 , 8 , 10 , (11) Mac非対応/2025年スマートフォン版発売予定
備考:主人公・モブ含めフルボイス/後編:今冬頒布予定
■ストーリー
東京は八丈島より先の離島
大江島で行われる
ある女優の三回忌。
探偵社に勤める大崎は
なりすましての代理参列という奇妙な依頼を受ける。
しかし、 誰も見たことがないという施主
定刻を過ぎても迎えに来ない船頭
なぜか恐れ、憎しみあう参列者たち
不吉な島に取り残された十人は、
参列者に共通する過去と
女優「大江杏」の死の謎を紐解いていく。
古典クローズド・サークルを日本色にアレンジした昭和ホラーミステリー
出典:https://adeltaz1.wixsite.com/owen
◆総評(本編のネタバレなし)
公式からもアナウンスがある通り題材が題材であるため、おいそれと口に出して面白かった! 最高! とは叫べない作品であります。しかし、今作を発売初日から遊べたことを生涯誇りに思うほど、上質なプレイ体験でした。
元はと言えば古書店街の橋姫をはじめ、エンタメとして消費されるだけに留まらない悪人の描き方が好きでADELTAを追い始めた経緯がありました。今作でもそれがしっかりと表現されていたことから、やっぱりこのサークル好きだわ~と再認識。
体験版部分を含めるとプレイ時間はおよそ20時間弱ほど。前半だけでこのボリュームとくると、後編への期待も高くなるばかり。商業作品でもよくお見掛けするような豪華声優陣×フルボイスの本作ですが、頒布価格に関しては(購入して例の特典見た人ならお分かりいただけるだろうけど……)ちょっと安すぎて破産しない? と思うほど。
……私は本編含め、この”御礼メッセージ”が大穢において最怖のホラーコンテンツだと思っています。
◆作品の特徴
本作の参列者達(攻略対象)は全員殺人鬼。
非常に目を引く惹句ではありますが、本作で描かれるのはそんな彼らが絶海の孤島に集められるに至った過去の数々。普段生活していればまず関わることのないであろう人種の彼らの姿が、さっぱりとした文体で非常に人間臭く語られていきます。
悪人という一言では片づけずに、かといって過度に寄り添うこともなく。主人公大崎が持つ裁判記録の主文のような無機質さ(たまに年相応のツッコミも添えて)に、これを執筆したのは判事ではないか? と思うほどあらゆる事件や罪状や過去が簡潔に、しかし確かな驚きと共にプレイヤーに明かされていきます。
自分自身も痛い所を突っつかれているような、しかして彼らの過去や罪状に驚かされつつも心のどこかでは共感せざるを得ない、非常に奇妙な後味を持つ作品です。
似た感触の作品をあげるのであれば、吉里吉里製・同人発・原作はほぼワンマン制作と何かと共通点の多いTABINOMICHI制作”シロナガス島への帰還”の他に、CLOCKUPの“鏖呪ノ嶼”などでしょうか。戦後復興を陰鬱なものとして描いた作品として、雰囲気だけでいうのならゲ謎なんかも各所で上げられていそうな感じ。
特に鏖呪ノ嶼は呪い・呪術といったSF要素こそあるものの純和風な日本が舞台となっており、男性向け版大穢といってもおおむね差し支えがありません。
同じく2024年発売の成人向けADVということもあり、近い雰囲気を感じる人も多いのではないかな。あちらもかなり犬神家の一族を意識して制作されており、一般・成人向け問わずじわじわ伝奇ブームが来ている感がします。
◆主人公 大崎について
絶海の孤島・大江島で行われる三回忌への代理参列という、奇妙な依頼を受けるところから始まる本作ですが、物語が進むにつれ徐々に彼を形成するとなった過去や生い立ちに触れることとなります。
物語全体を形作る時代背景には暗く重ったるい雰囲気が漂いますが、そんな中でも大崎は常に参列者に協力を要請し平和を望む、良くも悪くも”善人”でありたいと望む青年です。
どのルートでも共通しているのが、彼がひたすら“人として在る事”に非常に重きを置いているということ。しかしその決心も決して巌の様に頑なという訳ではなく、時には弱みやゆらぎが現れる場面も……
それをあばたと取るか、えくぼと取るかはプレイヤー自身の自由です。決して清浄なだけの物語ではなく、色々な意味で耐性が求められるシナリオのため、ルートによっては強烈な不快感を覚える人も少なからずいるのではないかと思います。
それでもどうか、ただ船で道行が一緒になった人のためだけではなく、”自分が自分であるために”動こうとする大崎の行く末を、ぜひその目で確かめてみてください。
以下、本編のネタバレを多分に含むため、ご注意ください。
◆各ルート・参列者評
※元ネタ考察の部分は筆者の知識からの類推・想像の域をでないことをご留意ください。
体験版時点での考察はこちら
・大崎×有明ルート(初回固定)
ADELTAの初期固定ルートの男は確定でやべーって5億年前から相場が決まってた。
やっとみんな会えたね(n年越し)と思ったら、初回から大穢コンプリートセットDXみたいなルートだった。
……悔しいけれど、ここはもう運命という言葉を贈る他ないなぁ、と初見時は感嘆のひとことしか感想が出ませんでした。悪行もここまで極めると美学になるんだなぁというのをまざまざと見せられるルートです。
有明を演じる白上奏氏の演技を今作で初めてお聞きしたのですが、添い寝ASMRもかくやの癒しボイスに”こんな人が人を殺すなんてあるはずがない!”と大崎が信じて疑わない理由もわかるとも…… オートプレイ中の間の取り方ひとつ取っても、一行ごとに緻密に設定されているので途方もない労力がかかってます。ゲームの止め時がわからなくなる程ほど、魅力的な声です。
そんな声で全編通して大崎に対して弱者として振舞い、自分の目的のためだけに事件を起こし、ひたすらサブリミナル的に大崎の地雷を刺激してストレス値を上げている一連の所業を全部冷静にこなしているのがこれまた厄介。大崎に惚れてなかったら何しでかしてたかマジでわからんよ、この人……
声から容姿から過去に至るまで、”確定でヤバイ”(公式まま)要素しか取り揃えてないのに、なんでこの人のこと嫌いになれないんだろうとは思うんだけど……この人なら善人の面と悪人の面を難なく両立させられるだろうなと、納得させられるだけの材料を本編中だけで全部揃えちゃっているのがすごい。
逆に、大崎が有明を選ぶ理由についても過不足なく語られているので、出会うべくして会った二人だったと思います。初恋はやっぱどんな形であれ叶ってほしいよ。
自らの出生について強烈な厭悪を作中で吐露する大崎ですが、他方日常生活で善人として振舞う自身を偽物・本当の姿ではないという意識もあるようで…… それでも自分を生んだ両親に対して、少しでも理解したいという気持ちの芽生えも見て取れます。
だからこそ、暴力的な一面を知った上で愛してくれると誓った有明に、大崎は修羅の道だとわかっていても心酔してしまったのかも。
ありのままの自分を見てほしい、そんな希求をすべて叶えてくれる人がもし目の前に現れたら? 人でなしであることを、そのまま受け止めて抱き留めて母のように背をさすってくれる人がいたとしたら?
……その手を拒むには、彼は少々孤独過ぎたのかな、とエンディングを見終わってみて気づきました。
その後、波止場でしんせい蒸してるスチルなんか、とびぬけてコントラスト高いのもあってこれは魔性のファム男極めすぎでは~と、ず~っと鳥肌が止まらなかった。これを初見で、ネタバレなしで、ノンストップで読んだ瞬間の没入感たるやね。
◆まとめると、すごい、どえらい、やばい
強いて欠点を上げるとすれば、ここ二人の関係性があんまり完成されすぎているせいで他2ルートを読むとどうしても“勝てねぇ……”と謎に敗北感を感じてしまうくらいか。
新橋・青海共に非常に魅力的な二人ではあるんですが、有明ルートを浴びた後では”これはもう大有ルートじゃねぇかな……”と唸らざるを得ない。良作たる弊害が出てしまっているという贅沢なお悩みです。とにかくそのくらい、このルートの毒は強烈で後からよく効く。
下でも書くけど、新橋・青海ルートでもずっと有明の影がチラついて見えるものだから、大崎も有明=自分の運命だっていう刷り込みされちゃってんだなーという読み方もできるんです。間違いなく大穢前編の軸になってる二人ですね。
有明さんのことを一度でも可愛い・良い人かも……と思わなかった人だけが石を投げなさい、そんなシナリオでした。
・元ネタ考察:有明編
大穢において、大崎の行動原理が常に有明にあると他ルートでもずーーっと示され続けているのが、至る所に巣を張る蜘蛛のようで、冗談じゃなく全ルート付きまとわれてんなぁという……
今作で攻略できるのは有明・新橋・青海の三名で、うち有明ルートは初回固定ルートのため、とりあえずプレイヤーはみんなお通し的に有明さんの入眠ASMRを聞くことになるんですね。
そのあとの有明以外の参列者ルートで第三者による視線や気配を感じるシーンがあるのです。
明らかにここ赤文字いる?という所が赤くなっていたのでわかりやすいかと思います。
新橋ルート:ふと、別の視線に気が付く/もう一度
青海ルート:唇/誰も耳をすませていない
・谷崎潤一郎と有明の関連
体験版の感想の方でも上げましたが、有明のフルネームの由来となっていると思われる”途上”は谷崎潤一郎の作品です。
有明ルートにて、彼がまとうキャラメルの香りに誇張抜きで人間性を揺さぶられまくっている大崎ですが、これと併せて有明の妹の名前が奈緒美(なおみ)ということから、谷崎の代表作”痴人の愛”なんかも下敷きになっていそうなことが読み解けます。
痴人の愛は主人公が理想の女に育てようと可愛がっていた女・ナオミとの爛れまくった関係を描いた小説。
痴人の愛:章二十六では、一度関係を解消したナオミが”あたしたち友達でしょ~”とずけずけ家に上がり込み、唇に香水を塗って寸止めの接吻をするのに誘惑されてしまう残念な主人公が描かれている。印象的に鎌倉の景色が描かれる他、関係を解消したにも関わらずあの手この手で近寄ってくるナオミに惑乱され、結局ナオミの手玉に取られてしまう河合の姿は大有にも通じるところがあるように感じます。
大崎自身が本編で“自分を加害者に駆り立てたのは、あなたの……「」”と、回想するのも、ぼんやりこの辺がオマージュされてんじゃなかろうか。大崎が他2ルートで目線を感じているのも、本人が見ているor有明に対する後ろめたさがあるからだったりして~なんて考えてます。
倫理だの道徳だのは一旦置いて、大崎を共犯者として誘い込み駒としても悪人としても愛し、最後には全部自分のものとしてしまう有明の手腕には脱帽の一言に尽きるし、そしてそれを納得させてしまうだけのヘイト管理が上手い! 悪女にお手玉としてもみくちゃにされたい人にオススメなルートでした。
・EDについて
大崎の出自と同じくらいびっくりしたのがED担当のど〜ぱみんさん!
よく曲聴いてるボカロPの一人なのでクレジット見たとき衝撃でした。
イラストレーターの爆発電波さんが好きでど~ぱみんさんの楽曲を聞くようになったのだけれども、クレジット見た瞬間“こんな若い人を起用しちゃうの”と、今後発表されるであろう後編の作曲担当さんにも期待値上がりっぱ。
※ど〜ぱみん楽曲を知りたい人はぜひ氏の“Prima Vista”を聴いてほしい。一音目からインパクトの強烈さに堕ちるナンバー間違いナシ。
・大崎×新橋ルート
平成のエロゲヒロインとか暴力系ヒロインの系譜 かわいい
セリフ▶︎勘違いしないで・別に・誰かのためにやってることじゃない・他数々の暴言
行動▶︎土下座を強要する・高飛車に高笑い・殴る・踏む・挑発する・自分の決定に従うよう命令する・弱みを隠そうとする
属性▶︎妹&猫属性・毒舌・ツンデレヒロイン属性etc…
彼は高田ノブチナの血を引くものと見てほぼ間違いないでしょう。イメソンは言わずもがなノラととの「野良猫ハート」で。
……ふざけるのはさておき、新橋ルートの新橋は思っていた以上に行動原理が明朗で恋愛に至るまでも納得しやすく出来ていたのでかなり楽しく読めました。利害関係が一致した瞬間は逆に心強く感じた。し、仲間って感じではなく一時的な共闘関係ってお互いわかり切ってるからこその距離感というかね。少年漫画と少女漫画的なノリが混在する、アツくて甘々なシナリオ。みんなADELTAのこういう潔癖な子大好きだよね、わかるよ。
新橋の中で大崎=台場の誤解が溶けた瞬間からは一気にヴィラン度が下がって本来の陰気な性格が見え隠れし始めるけど、声色のトーンもグッと落ちるのが堪らなく良い。大仰に振る舞う姿も偽物ではないのだろうけれど、下手に着飾っていない方もまた可愛く見えてしまう。
あと眼帯外した時のあの演出ズッルいよねぇ、好きな男に気持ち受け止めてもらえて泣くヒロインは可愛いに決まっとる。とはいえ告白してからの初夜まで大崎がずっとエンジン踏みっぱなのはびっくりした。ブレーキ効かん坊かいな。
自分主義で奔放な人かと思いきや思いの外損得でものを考える人だし、自分のことが好きになれないからこそ自分以外のもの(同居人こと猫・劇団とかそのファンとか)を大事にしていて、それが壊れたり奪われることが何より苦痛なのかも。
だから所在不明な遺品のペンダントを手放せず、いるかもわからない誰かに返すために持ち歩いていたのだろうし。穏やかな暮らしが何より好きな人なんだと思う。場を引っ掻き回せるのも周りをよく見ていることの裏返しだし、作家はやっぱり人間観察好きであればこそ。
だからこそ、言われのない(と本人は主張する)大江杏の自殺教唆の罪に関しては強く怒りを露わにしたし、逆に自分の領域に踏み入ってまでやりなおしを望んだ兄に対しては殺意を抱いて、罪の否定もしなかったのだろうな。それこそ罪の意識すら飛んでしまうほどに。
悪びれてこそいないが、過去の断罪を異常なまでに恐れている点が人間らしくて良かったルートでした。
・元ネタ考察:新橋編
シナリオから:エドガー・アラン・ポー/黒猫
片目の猫や名前・主人公が猫を木の枝に吊るす部分などからの推測。橋姫のモルグ街の殺人といい、本当に小説のオマージュがよく出てくるサークル。
EDから:オディロン・ルドン
初期は詩や小説・音楽などをテーマに黒一色で構成される神秘主義的な作品を多く製作し、後期はパステル・油彩による鮮やかな画風を確立し画壇を総なめしたフランスのすごい画家。
ルドンが新橋のモチーフの一つに選ばれた理由は彼が刊行した石版画集”エドガー・ポーに”からか。
有名な一つ目の版画(眼は奇妙な気球のように無限に向かう)含め10点ないほどの作品から構成される画集なのですが、タイトルの通りエドガー・アラン・ポーその人に捧げられたものとなります。
新橋EDがモノクロ2値中心で構成されているのはルドンが50歳くらいまで黒一色中心の作風だったことを踏襲してのもので、歌詞に花というワードがいくつも出てくるのは同様に彼の後期の作品群を指していそう。フランスの文学者達から認められ名声を得ていく段階では精細なリトグラフや木炭を用いた挿絵などを多く制作していたのだけれど、後世では表現の幅を広げるべく油彩画やパステル画も描くように。
EDの歌詞に関係してそうなのは
顕微の鏡:クラヴォーがルドンに顕微鏡からの景色を見せたことで幻想的な作品観の構築に影響を及ぼしたとされることから
私の芽:胚芽(作品タイトル)
陰にこもった~:ルドンの作風が長く黒一色を中心に構成されていた
花:後期では花の油彩画・パステル画を多く残している
また、歌詞にあるクラヴォーことアルマン・クラヴォーはルドンが15歳頃に出会って影響を受けた植物学者。
クラヴォーが自殺した翌年には彼の死を悼むために”夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出に)”と題した石版画集を刊行するなど、ルドン自身強く影響を受けた人物の一人。
キャラ回りでは
・口調が大仰で芝居染みている➡ルドンが小説や戯曲などの挿絵を多く担当した
目についての描写が多い➡”目を閉じて”に代表される女性や単眼の作品群から
・鎌倉のお化け屋敷に住んでいる➡バルワー=リットンの小説 幽霊屋敷の挿絵をルドンが担当したことから?
※猫の視線のようなスチルが幽霊屋敷のⅠにかなり似ている。
あくまで推測が多いですが、ルドンから拾えそうな要素はこんな感じ。後日談のタイトルがボードレールから取られたりしてな! ※ADELTA恒例の各CP後日談はタイトルが文学者の詩から引用されることが通例。
ちなルドンのメッカとして有名な岐阜県美術館だけれども、12月8日までルドン展やってます! 過去類を見ない規模です。橋姫の聖地巡礼などで明治村行った時一緒に観てきましたが、展示されてる点数が半端じゃなくて良かったです。
大ボリューム過ぎてルドン展だけで3時間近く滞在したし、巡回はやるけどこのデカい規模での展示が他で必ず見られる保証が無いのでもう一回行くか悩み中…… 一応巡回展もやるけど面積的に規模縮小が見込まれそうで、無理押して先乗りしました。連休が取れたらまた行きたい。
・大崎×青海ルート
清廉な音楽教師なんか駄目に決まってた。人のためにばっか動く人がマジで駄目。あ〜あ。
やっぱ凜子先生の描く男性向けシナリオどっかで見てみたいわ。箱根とハワイ舞台のゲームの次は女の子のゲームとかどうですかね。
青海ルートのサビは社会的には善人とは言えない父親への確固たる愛が攻めを前にしても全く揺らがないところ! 一本芯が通っていてすごくいいんだよ!
人様から見れば悪人だったとしても、その下には家族がいるって所までちゃんと描いてくれる作品ってなかなかないし、あったとしても美談に持っていきがちな傾向あると思うんだけど。そうはならないのがADELTA仕込み。
ADELTAって悪人そのものもそうだけど、その周りの人たちの心理を描くのがシャレにならんくらい上手いんだよな〜~~~ 橋姫の会津組らを見ててもそう思う。色々あっても幸せになっていいと思うんだよねという、善人以外の生き方のサンプルが豊富。
0か100かでキャラ性を強調するのではなく、グラデーションがありながらもそれをぼかさず“この人はここまでなら許せる”っていう尺度をキャラクターごとにしっかり設定して、レギュ違反せずにおもろいシナリオ書いてくれるからずっと好きなんだよ。これは青海ルートに限らず全編がそう。
自己評価が極端に低いところや捨て身捨て鉢な部分は大崎に非常によく似ているし、自分の生き方を狭めているのでは~みたいな大崎➡青海評も的確。ここ二人が雰囲気似てるのも気になったし、台場がわざわざ「三人で」と言ったのは何か意味があってのことなのだろうか。初期設定資料集の方では年齢が隠されていたことも疑問。これは代理参列を隠す意味もあるだろうけど。
わがままをいうのであればもう少しだけでもお互いへの内面描写が見たかった(特に大崎←青海)感じはする! そうは言いつつ、大穢前編の中では唯一ボロッボロに泣いたルートでした。普通に好きです。
というのも私が青海先生が推しなのもあって、彼の考えや心理をもっと見て見たいと、共通とか他ルートを読んでいるとそう思ってしまうんですね。そう思わせるだけの魅力が彼にはあるんです。
青海自身の気高さ・人間的な魅力は十分伝わったけれど、恋愛描写に至るまでには決定的なピースが欠けている感じが否めない。それもこれも全部有明ルートが強すぎるのがいけない。
青海が頬を染めてるのもあくまで父親への愛情を認めてもらえたことが嬉しかっただけのように見えたし、仮に大崎への情があったとしても恋愛色は淡白な仕上がりで落ち着いています。
青海ルートはライターの件を見ても後日談を経て完成するタイプのルートだとも思うし、大穢は別ルートでも自分が主役かってくらい参列者たちが色々な魅力を見せてくれるので、後編に期待です。
・青海先生が本当に無罪かはまだわからない。
ここまで清廉さが強調されている青海先生だけれども、招待状が全て明かされていないのが少々気にはなる。
父親の代理参列という共通点もあって、前編クリア時点では大崎とは鏡写しにされていそうな人だった。漂白された大崎って印象。だからこそ彼も同様に何か罪を抱えているのではないかとどうしても勘繰ってしまう。
・青海ルート・聖地について
伊豆大島・波浮港については昨年のレポを参照。
キレイだったから、来年も見に行きたいな~
風光明媚なところなので是非行ってみて。
◆人を選びそうな要素について
倫理的に受け入れ難い描写が結構出てくるので、ドキッっとするシーンがちょっと多め。参列者の過去と罪状・大崎との関係が密接に関わってくるので、恋愛要素だけで良い! という人には不向き。
作中でのDeath数が多いこともあって過去作一キツいが、悪趣味に走っているわけではなくちゃんと流れや理由があってのことなので、嫌悪感を感じることはあまりなかった。苦手な人はとことん苦手だし、自分もいくつかのシーンでは一時停止する場面がありました。まあ総じてボブゲ初心者向きではない。
上記の要素が演出とシナリオによって2倍3倍、それ以上になっているので、読めはするけど……程度の人にはあまりお勧めできないかも。体験版のはまだまだ全然お通しだったな……って感じ。
驚き・びっくりではなく、人が怖い感じのシナリオがずっと続く。慣れてる人は全然気にならない程度の怖さだと思うけれど、穏やかじゃない雰囲気の話が全然得意じゃないので、後編出るまではしばらく怖がりながら遊んでいると思います。
◆ミステリ要素について
難しすぎることはなく、赤文字部分を読んでいればすんなりわかるタイプの謎。飽きがこない程度にはうまく推測できないように出来ているので、ちょうどいい塩梅だと思います。あくまで変格ミステリの部類ですので、謎解き要素だけでの購入は非推奨。謎解きメインいうより人が怖い系のミステリだと思ってもらえれば。
行動原理が明かされるまではわかりづらかった各ルートの攻略対象たちの心理もシナリオをクリアしてみるとすっきり解消されるため、めちゃくちゃカタルシスが得られる。参列者ズが独白し切った瞬間のシナリオの説得力が段違いでした。そういう点では非常に上質なミステリという印象。
ルートごとに色々な面が見られるのでキャラクター達を見る目が変わりはするけど、全く別人になるという展開はなく、あくまで人物像が地続きであることが徹底されている点が人間味を感じて良かった。
マダミス版で出ていたのならさぞや面白い作品になっていたのだろうな〜と惜しむばかりです。とはいえマダミス版なら本編遊ぶ前にしか遊べなさそうではある。
◆全体の舞台モチーフや聖地について(推定)
※発売前の考察はこちら
・鬼
大江山はじめ、食人・非道といった説話における鬼の特徴が頻出してる。
実はタンブラーの各種イラストにも鬼との関連を思わせるものが多く、ウサギの品種のイラストにもうっすら鬼の文字が隠れている。全員犯罪者=鬼というニュアンスでモチーフに取り入れられたのかも。
・大江山
鬼の四天王が一人、酒呑童子の逸話が残る地として有名な大江山。
能の演目はじめ、絵巻や物語として伝えられて現在に至る。
源頼光一行が騙し討ちのような形で毒酒を差し入れたり、変装をして鬼の本拠地へ乗り込むなどして鬼を退治する伝説。発売前のアクリルスタンドには大崎に酒を差し入れる何者かのイラストが描かれている。
・ゆりかめも
以前三日月・八重垣が参列者の人数に関わってるんじゃないかというぼやきを上げた気がするけれども、まさか本当に11人目の参列者がいるとは。
路線図を見てみると確かにテレコムセンターみたいな明らか人名にはならんだろう……(なってるけど)という駅名を除いていくと、芝浦が残る。怖え~ 浜っていう苗字は浜離宮から?
・浄妙寺(鎌倉)
境内は別のお寺だけれども、現在も京急バスが通っておりルートも完全一致なので、冒頭の雰囲気を感じるにはおすすめ。上の方にある石窯ガーデンテラスは眺め良いしパンがおいしい。
周辺には鎌倉で最も古いとされる杉本寺や竹の道で知られる報国寺など、見ごたえのあるお寺がいっぱいあるよ。杉本寺のお仏像めちゃくちゃかっこいいのばっかりなので是非観てみて!
・波浮港周辺(伊豆大島)
去年の冬に大穢のために先乗りして観光行ってきました。レポもあります。
厠とか八重垣のスチルと思しき箇所が追加されたので、後日記事を更新予定です。
・大久野島
ウサギが沢山いることで有名な島。
トンネルとか遺構・あとは毒ガス開発の話なんかはここから来てそう。
・明治村
碇国ホテル➡︎帝国ホテルロビー
併設のカフェではコーヒーも頼めます。
・帰島後大崎が入院した病院➡︎日本赤十字社中央病院病棟
・明治村の他の大穢・橋姫聖地について
新橋邸とか小ネタはこちら。
・江戸東京たてもの園
八重垣内のお風呂➡︎子宝湯
・月宗寺の蔵
橋姫の梅鉢堂のモデルでもある。取っ手の部分が大崎が閉めた扉のものと似てます。
パッと思いついたのはこのくらいでしょうか。鶴岡八幡宮とか鎌倉のお寺と、明治村に関しては別記事で詳しくまとめております。
◆後編までに考察したい諸々
・参列者+aが赤目の理由
赤い目をしているのは参列者の他に、台場静馬・佐兵衛の2名。
赤目が示すのは①人を殺したことがある ②血縁者のどちらかか…というのが体験版前の予想。
前編で大崎が祖母を自殺に追いやったことを罪と仮定するならば、有明BエンドEDの幼大崎スチルの彼が赤目をしていることから、①の線は薄くなります。祖母以前に何かしらあったのなら別だけれども、大崎他、参列者の身内が一切出てこない点から見ても②の線が濃いのじゃないかな。
・参列者=血縁者説について
個人的には参列者=血縁者説が一番濃いと思っていて、各参列者の発言を正とするならば大江島にルーツを持つ登場人物が現時点でも5人(大崎・有明・新橋・台場静馬・大江杏)いるとされることからも、まだまだ大江島に所縁のある参列者は出てくるのではと予想。
他にも
①豊洲が参列者達の顔が良く似ていると話す
②大江島出身の大江杏・有明の妹奈緒美が似ているという描写
③大崎と新橋の祖母が似ているという描写
④書簡リストからの類推(大江杏と、彼女の付き人)
なども、血縁者説を推す理由のひとつ。
もし血縁者説が本当なら、青海ルートの折檻部屋の一幕で汐留が語った明治時代の客人が種となった可能性もあるのかも。男から増えていく逆タナバ伝説とか。そうでなくばあの男について描写される必要性がない気がする。
関係ないけど横溝リスペクトがすごいから大穢も座敷牢くらい完備されてるだろうとは思ったけど、ちゃんとあって感動しました。
・大崎がエピローグ前後で感じる視線・気配は誰のものなのか。
新橋・青海両ルートにおいて、島を脱出した後に大崎が誰かの視線を感じるシーンがある。
新橋ルート:猫のおおさきさん
青海ルート:中居の男
じゃないかとぼやかされてはいるけれど、先で書いたように実は有明への潜在的な感情が後ろめたさを引き出しているのじゃないかと。或いは第三者に見られているか。現状大崎or台場に殺意を向けてくるキャラが新橋除くと全く浮かびあがって来ないのが怖い。
・大崎/台場の生きては返せない人は誰?
これは100%ないだろう大崎ラスボス説に基づく素っ頓狂な妄想なんですが……
前編では大崎自身の死生観とか、自我がどういう認識なのかをかなり深堀されましたが…… とにかく自分が”人間でない”という認識が大崎を大きく支配しているのは間違いない。
自分が人間でないなら、数ある罪の中でも最も重いとされる”殺人”を犯した人々はどういう人なんだ……と、探求心が沸いた結果、大崎が新木場さん経由でこっそり過去の事件資料を集めて封筒を出した……なんてことはないかなー 参列者の罪を施主が知った方法が知りたい。
そもそも台場静馬が大崎に依頼を出したのも、大崎がそうならざるを得ないよう奇妙な依頼を出したから?
台場佐兵衛が静馬に代理参列を依頼したのも、“息子に瓜二つ”で、“大江島にゆかりがある”この条件に値する人間に初めから心当たりがあったからでは? 大崎に向けた見定めるような目が、何か含みがありそうな気がしてならない…… 台場がやたら“兄弟!”と胡散臭そうに呼ぶのもその関係に気づいているからでは。
心当たりがあるとすれば、①大崎が佐兵衛にあらかじめ脅迫の手紙を出していたとか、②妾の子・愛人に認知していない子供がいたとか。
いやまあ、強い主人公が好きなだけだから勝手に色々妄想しちゃっているだけではあるのだけれどね。でもやっぱり対岸の大江島から流れてきたボトルメールを開封して涙する新木場さんとか見たいじゃんね。
◆今後の記事更新について
・鬼の伝承からみる大穢考(改)
本編でも言及のあった源頼光と大崎周りの考察を後編出る前にまとめられたら。
おおむね源頼光の伝承と土蜘蛛、大江山の鬼の逸話なんかをさらに深掘りする形になりそう。
・鎌倉の方言と蝶の信仰
ウルC・大穢の二作にまたがってみられる蝶のモチーフについての考察
鎌倉に残る蝶々の方言について。
・丹那婆信仰と伊豆七島各地に見られる信仰について
火の鳥とかでも題材になっている信仰の一つ。詳しく資料に当たることができそうであればこちらも。➡史料まとまったら投稿予定です。
・聖地巡礼のレポ
明治村・東京(江戸たてもの園)この2つをまとめる予定です。
明治村はウルC・橋姫・大穢の3作の聖地でもあるのでボリュームすごいことになりそう。
後編に関してはネタバレ禁止なのでゆっくり楽しむ準備を整えようと思います。
最後に本記事に関して、◯◯では? みたいなご指摘・ご意見等ありましたらお気軽にフォーム・TwitterのDM等をご利用ください。
最近大穢をプレイしたものです。
82様の考察を見ながら、自分自身も考察をしていく中でこれかもしれないなというものがありましたので、コメントさせていただきました。
①女ヶ島=女護ヶ島説
汐留くんがストーリー序盤で、大江島は昔は女ヶ島と呼ばれていたと発言しているのですが、少し似た言葉で女護ヶ島というものを見つけたので、調べてみました。
船野さんが言っていた悲恋の伝説も含め、重なる点が多いのと、82様が考察していた鬼についても書かれているため、これではないかなと思います。
詳しくは、「女護ヶ島 コトバンク」で調べていただくと分かりやすいかと思われます。
②猿島が聖地一部説
猿島を調べていただくと、有明さんルートの展望台と、新橋さんとの分かれ道のお話のイラストと似ている気がします。
このような場にコメントすることは初めてなので、何か失礼があったら、申し訳ございません。よろしくお願いいたします。
もりもり様
はじめまして! 閲覧&コメント&メールをお送りいただき、誠にありがとうございます。
まずは返信をお待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
専門で研究をしていた分野という訳でもない手前、下手な考察をお聞かせするのもいかがなものかと考え、返信を思いとどまっていた次第でございます。それと純粋に遅筆なくせ、コメントを頂けた嬉しさでつい返信に筆が乗ってしまったというのもあります…… 重ね重ね本当に申し訳ないです。
不肖ながらブログを開設したのも、少しでも作品の聖地巡礼や考察・妄想を楽しむ人が増えたらなという思いがきっかけでした。そのためもりもり様のような方にブログをご覧いただけましたことを、本当にうれしく思います。
女護ヶ島伝説に関する考察は、ちょうど私の方でも考察を進めており史料の収集・精査を行っている最中でした。以前伊豆大島で為朝伝説についてお伺いする機会にも恵まれたのですが、手元の史料が乏しく史料を集めてから文章にまとめようと投稿を控えていた次第でございました。
後日改めてお礼と併せてご返信させて頂ければと思いますので、今しばらくお待ちいただけますと幸いです!
もりもり様
改めまして閲覧&コメントありがとうございました。
まず、①女護ヶ島に関してですが、おっしゃる通り大穢前編にて汐留の口から語られた大江島の伝承は八丈島・青ヶ島・周辺諸島のそれをかなり踏襲しており、本編でも強く反映されているなという印象を受けました。月宗寺やその他の伝承についても、そのほとんどに元ネタがあるんでくろさわ先生ご自身かなり綿密に調べられているんじゃないかと。
女人禁制の島と言えば宗像大社のある沖ノ島なんかがメジャーですが、仰る通り女護ヶ島は現実には存在はしておらず、能や御伽草子などでその名を見ることが出来るいわばムー大陸みたいな創作の地ですね。実在する八丈島・喜界島はじめ奄美群島などに当てはめられた結果、主題として好まれ能や保元物語などの創作の中で語られるに至るといった寸法です。
大江島が女ばかりの島と語られたところの元ネタは、おそらく為朝伝説の一部からの発展でしょうかね…… 為朝が現地で女と婚姻しても祟りがなかったことから島に住んでいた男女が同棲しはじめたという話が八丈島に残っており、流人として流され島を制圧したという点も、近隣諸島を制圧し勢力を拡大した結果討伐のために攻め入られ八丈小島で自害した話に重なりますね。
船野さんのいう悲恋の伝説というのは、おそらくは同様に八丈島・青ヶ島に伝えられている婚約の草履のお話や、為朝によってもたらされたとする男女同棲の逸話を指しているのではないか、と思います。
この辺の南方の島を理想郷・あるいは異界として印象深く描いた点は実はADELTA過去作にもみられる手法で、そちらは明確に”南洋幻想”という言葉で島=別世界という異界性が強調して描かれています。その他、蝶が要素として入っていることを見ると常世神信仰・不老長寿と結びつく&八丈島に記録が残る徐福伝説なんかも組み込まれているのではないか、と見ています。
現代を生きる我々ですら離島を訪れると島特有の郷愁を感じ取れるのですから、当時本土に住んでいた庶民からすれば何十日もかけてやっとたどり着ける離島は異界も同然で、それだけ八丈島や為朝の逸話は文化人の想像力を掻き立てるテーマだったのじゃないかなと思います。保元物語などの創作において為朝が大島に留まらず伊豆諸島や九州に飛躍していった理由かも。
それに加えて
・能
・流人・罪人・犯罪者
・源頼光・鬼退治・鬼ヶ島
・横溝正史
などのキーワード・要素からも、女護ヶ島・俊寛・鬼界島などといった隔絶された孤島・または流刑地としてメジャーなこれらの島を印象付けるために逸話を汐留に語らせたのではないかなと感じました。そして誰もいなくなった・犬神家の一族はじめ金田一シリーズ・アナタハンなど多種多様の島モノがモチーフとなっていることなんかも見逃せません。
島と言えば今年の冬に聖地巡礼も兼ねて大島へ行ってきまして……その時地元の方にお話をお伺いする機会に恵まれ、大島に限らず流人の墓が伊豆諸島各所に建てられていることだとか、史跡が残されていることをお教えいただいたんですね。当時は発売前だったこともあり、加えて八丈島の民俗・信仰については手元の史料だけでは考察するに足らないと考え投稿を控えておりましたが、偶然良い感じの史料に当たることが出来ましたので年明けにでも記事を投稿できればと考えております。
また、②猿島に関しても現地行けたらなーと考えていたんですが、未だにちゃんと調べていなかったのでタレコミをもとに写真や構造物を調べてみました。確かに白い灯台がにちょっと似てる感じがしますね。 情報提供いただき本当にありがとうございます。
その他、メールで頂いた件に関しては上記の返信で参考にした文献も併せてお返しさせていただきます。お返事をかなりお待たせすることになるかと思いますが、今しばらくお待ちください。