【感想】”古書店街の橋姫”をクリアして大体一年経った

クリスマスを無事何事もなく生き伸びました。クリスマス要素は全くゼロですがモンブランにありつけたので、一応イベント気分は満喫できたと思います。そして今もこれを書きつつ近所で割引価格になっていたガトーショコラと適当に作ったグリーンビール(ビール×キュラソーのステア)でキメてます。

爆音で有線が流れてるだけなのにクリスマスってどうしてああも趣深いんですかね。成城石井でもコンビニでも、どこも赤と緑で溢れまくっていた12月も振り返って見りゃもう一週間も経たずに終わりを迎えます。来年も無理なく平常運転で頑張りたい所存です。

大穢についての話

赤と緑といえば、クリスマスイブにADELTA新作”大穢”の演者発表とボイスサンプル公開がありました。当日家に帰ってから早速聞いてみましたが……どの演者さまもとにかくお声がいいこと! 何度見てもCV欄の豪華さに驚きますね。別所で推しの声帯を担当されていたり、ボイスを購入したことがある程度には好みな演者さんがいらっしゃるのも、個人的にかなり嬉しいです。

発表された参列者の中では特に竹芝と有明・船野の声が好きですね。何より桜花さんの続投が嬉しいですねー。橋姫で花澤の堅物っぷりに心底ほれ込んだ記憶がありありと浮かびます。

古書店街の橋姫をクリアして大体一年くらい経っていたので色々語る

Twitterでもぽろっとつぶやいたんですが、もともと私が橋姫を遊んだきっかけも大穢の存在があったからなんですね。ちょうど橋姫をクリアしてから今月で一年経ちました。時の流れとはまあなんと残酷な……

当時はスロダメをクリアした直後で、次に遊ぶBLゲームを探していた時に橋姫の評判の高さをお伺いし、そこでちょうど大江の告知を目にしたんですが。大穢(大江)というタイトルに込められた意味合い・国内外問わず取り入れられた文学作品オマージュなど、なんとまあ自分の好みそうなサークルにエンカしてしまったなぁ!と、わくわくが止まりませんでした。

女性向け界隈ではなかなか取り扱いの少ない古き良き純日本を描き、時代考証に基づく作品作りをされるサークルさんなんだなと大穢の宣伝や投稿を拝見して(あとはCocoonBN体験版で垣間見えた文章力の高さ)、橋姫をDLした経緯がありました。新作発売という大変いい時期にこのサークルと出会て本当によかったですね。大穢の誕生に立ち会えるというだけで私は恵まれています。

2022年初見プレイ当時、美しいなと思わずにはいられなかったシーンたちです。あまりの面白さと読後感の良さに、涙腺バカになりながら水玉ルートを徹夜で通過したことが記憶に新しい。

……実際、前情報なしで橋姫を遊んでみたんですが、ああいう一見人を選ぶようなゲームがこの世に出て、かつしっかりと多くの人に愛されているっていうのは一ゲーマーとしてもとても嬉しい限りです。

昔の様に継続してコンテンツを追っかけられるような気力が減衰したのか、ここ最近は新しくゲームを遊んでみてもなかなか熱を上げることが出来なかったんですが……この作品のおかげで久々に神保町に行ってみるかーと重い腰を上げてふらっと遊びに行ける程度にはフットワークが復調した風に感じます。ランチがうまい居酒屋見つけたんでまた来年古本祭りの時にでもリピートしたいですね。

肉
飯が美味くていい街です

話は戻りますが、橋姫がああまで面白かった理由ってなんなんだろうなーと考えていたんですが、他の商業・同人BLゲームの傾向と比べると、作品内に明確に元ネタやオマージュ元とされる現実の出来事・人物が存在し、かつそれらをふんだんに作中に織り込んでいるという点が最も大きいんでは、という結論に至りました。

橋姫のような作りのゲームを商業でやろうとすると、制作にかかわるクリエイター全員が文学者の軌跡や来歴・出版史に至るまでを網羅しておくことが大前提になるでしょうし、時代考証をするだけでもスルスル時間が溶けることは容易に想像がつきます。おまけにそういった障壁を乗り越えて作品をリリース出来たとして、売り上げに繋がるのかという前提の問題が立ちはだかります。

果たしてこの世にドグラ・マグラを全編読破しているBLゲーマー&ゲームクリエイターがこの世に一体何人存在しているでしょうか? あるいはドグラ・マグラを読破したことのある人間が、平然と幼い子供を保身のためのエゴひとつで殺そうとした挙句、現実へのままならなさに泣き叫び慟哭し、全裸に手ぬぐい一枚で夜の往来を怒り心頭で突っ切るような、気狂いな主人公を主軸に据えた作品を遊びたいと思って、DLsiteがるまにで購入ボタンを押すでしょうか?

……少なくとも、売り上げが会社を動かす燃料となるメーカーが、そんなニッチ過ぎるゲームを作るために莫大な費用と時間をかけて開発を行えるとは私は到底思えません。古書店街の橋姫は同人だからこそ生まれた名作だと断言してよいのではないかな、と思います。

橋姫のエゲつない点って、ただでさえ活字に触れた経験の少ない人にとっては(言うまでもなく名作大作家ぞろいですが!)なじみの薄い泉鏡花や黒岩涙香など文豪たちの著作に対する解釈をキャラごとに設定し、それらを作中で断片的に語らせ行動原理と心理の説明とする、割と読み手の知識と考察を前提とするような芸当を平然とやってのけているところだと、個人的には思っています。

しかし、考察が必須なほど難解な物語なのかと問われると案外そうでもなく、小難しい考証はあくまで作劇におけるエッセンスでしかなく、実際は個性豊かなキャラクター達が繰り広げる雨の神保町での三日間と愛憎劇・それらに付随して展開されるメロウなシナリオがメインコンテンツである事が、同人作品にも関わらず古書店街の橋姫が今もなお多くのプレイヤーに愛され続けている所以です。

土台となるシナリオが面白いからこそ、時代背景や文学作品といった味付けがガツンとスパイスとして作用し、二重にも三重にも面白みが増して、結果現在に至るまで長く愛される作品となったのだと思います(もちろん、知識があれば面白さは何割増しにも跳ね上がりますが!)。

明治時代以降の日本文学を多少かじったことのある方であれば、大正12年当時にはまだ存在しているはずのないあの文豪の名や彼の代表作、キャッチコピーでもある“何が現実で何が幻覚なのか”という文字列からピンと来て、プレイ前からある程度オチを予想した上で楽しめることでしょう。

その上でフルコンプ後にモチーフとなったドグラ・マグラをはじめとするモチーフとなった作品たちを読み返してはおもしれ〜! と悦にひたりながらカルピスを嗜む……なんて文化的な楽しみ方も出来るかと思います。

けれど、そういった前提知識がなくとも橋姫はきちんと面白く、楽しめるように作られているという点に、プレイを終えてみればめちゃくちゃ情緒をぶち抜かれ、気づけばブログを開設しておりました。

乱歩横溝をはじめとする明治~昭和期周辺の文壇・文学作品に対する明確なリスペクト、それらを取り巻く出版史や文学史・そして大正~昭和期を語る上では外せない戦前戦後史を踏まえた上で、現代の我々に彼らの生きざまの是非を問う、非常に視野の広い作品であることは間違いありません。声を大にして言いますが、近年稀にみる快作です。

【DLsiteがるまに】古書店街の橋姫

大正末期、雨の神保町を描いたBLG”古書店街の橋姫”はDLsite他で販売中です。全編全キャラフルボイス・スチル200枚越えで主題歌とエンディング付き、野口3枚でおつりが来る価格破壊ゲームです。買おう!

とにかく作者さんご自身の作りたいものを堂々と前面に売り出している作品って、面白さとか抜きにして購買意欲がそそられるのですよね。込められた情熱が桁違いといいますか。

BLゲームとして求められる甘さをしっかりと出しつつ、あえて美しく愛されるべきであるとされるキャラクター達の持つ弱い一面を書き出し、かつそれらを玉森という自堕落でクズな男に掬わせるというシナリオの屈折っぷりは、BLゲーム界隈を見ても随一かと存じます。

しかし、どうしようもなく救いのない主人公だからこそ、心から彼らの抱える傷や過去に向き合おうと雨の神保町をひた走る彼がつま先を水たまりにぬかるませる度、彼らの本心に触れながら成長していく玉森に一種のカタルシスを感じざるを得ないとも思うのです。努力も勝利もないけれど、彼らのそばにはいつだって純粋とは言えない友情があったのだと隠し立てすることなく語り掛けてくれるのが、”古書店街の橋姫”というゲームなのです。

また、BoysのLoveにジャンル分けされるゲームをより好み遊んでおいてなんだ、と言われるかと思うんですが、ロマンスだけではなく恋慕や純愛だけではない、様々な愛の形が垣間見えることもまた私が橋姫を好きな理由の一つです。

水上・川瀬ルートにおいては特に顕著ですが、ちょっと目を離せばすぐに自己犠牲に走りがちな橋姫メンズ達をあの手この手で引き留めようとする玉森の行動原理や愛情は、下手すると“攻略ルート以外の男が好きなんでは……?” と錯覚するほどに重く、そして異様なまでに丁寧に丁寧に描写がなされます。言い方を変えれば”クソデカ感情”なんて言われもする彼の他者への感情の矢印は、必ずしもルートの攻略対象だけに向けられていないという点が橋姫がなかなか異例ともいえる点でしょう(ADELTA過去作:CocoonBNにおける雪空の関係にも近しい)。

しかし橋姫では、作中でくっつくCP以外のコンビ・絡み間にあるラブロマンス未満の感情や起伏を、存在しないもの・ノイズとして抹消してしまうのではなく、ルートごとに存在はすれども同居しうる感情としてボカさずしっかり描かれている点が本当に素晴らしい!! そして攻略対象→玉森に向けられる矢印のぶっとさが全ルートにおいて一貫しており全くブレないというのが、最高に信頼がおける作品です。

恋愛だけが愛のカタチじゃないし、断罪だけが救いではないというのが、冗談じゃなく作中で全部描かれているからこそ何度でも読み返して、彼らの行く末に思いを馳せたくなるんですよね。

メインキャラたちだけでなく、大泉家の治司くんや奥さん・博士の屋敷の女給姉妹(砂山さん一剣さん)もみんながみんな誰かを愛し、傷つきながら悩みながらも日々を生きています。一風変わった彼ら彼女らが葛藤しながら日々をどう過ごしていたのか、そういう息遣いがリアルに感じ取れる所が本当に愛おしいなと感じます。今後橋姫を人に勧めるときはこのポイントをめちゃくちゃ推したいなぁと思えるくらい好きな部分です。

長く書きましたが、古書店街の橋姫で紡がれる世界の鮮やかさに、私は強く強く心を突き動かされ、今後もADELTA作品のおっかけをしていくことを強く心に決めました、という年の瀬の語りでした。

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